家具制作鯛工房

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孤雲野鶴。鯛工房代表が綴るブログ。暮らし、生活、家具、社会。

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軽トラは走ったのだ

雨が結構きつかった。夕べは飲み過ぎでおまけに寝不足だった。五時には出発する予定だったのだが、もう六時を回ってしまっている。女房も飲み過ぎで具合が悪いといい、蒲団から出てくる気配はない。かなり情けない気分だった。これから東京へ行くんだなんて少々目眩のする状況ではあった。
ともかくピカピカの新古車、スバルサンバートラックは元気に始動。そして雨の中、朝から疲れぎみのオッサンを乗せて走り始めた。ああ、遥かなり関東だ。

後輩の勤めるジュエリーメーカーのボスとすっかり意気投合したのが、その年の正月のことである。三月に気の合う仲間達で展示会をやるから、一緒に出さないかという連絡がその後、後輩から入った。場所は浜松町、これれば来てもらいたいけど、遠いから作品だけ送ってもいいという話だった。その話を聞きながら、即座に僕は東京へ行く気になってしまっていた。展示会の事より、また仲間達と飲める、飲む口実ができたというのが大きな理由だ。僕は熊本の最北部にある山合いの町に越して来て家具作りを始め、もう五年になる。時間はあるが金は無い。連れ合いは、今回の展示会の話と、東京へ行くということについて特別異論は挟まず、「だったら行ってきたら、でもフェリーや高速はだめよ、余裕がないから行くのなら下っきゃないわよね」僕の目的を見すかしてそう言うのだ。これはほとんど行くなと言っているのに等しい。軽トラで、しかも一般道を東京までいくというのはどう考えても普通ではない。少しばかり距離がありすぎる。だいぶうなった。しかし、徐々にそれも面白そうだなと思い始めていた。出品予定は椅子三脚、わざわざ陸送して持って行くボリュームではないが、おじさんは軽トラ一人旅に、みょうに心動かされるものがあった。うまい酒は飲める。

山陰周りの方がいいだろうと言う話は、部落の長距離トラックのドライバーから聞いた。あとは行き当たりばったりだ、心配してもしょうがない、どの位かかるものかさえ僕には見当がつかないんだから。
荷物は袋状に包んだ、雨が入ってはならないのだ、なにしろ、荷台でいつでも寝れるようにシュラフを敷いておいたからだ。新車の香りの残る起き抜けサンバーは、耶馬溪から中津へ抜け、国道十号を北上、関門トンネルを潜り九号線へはいる。山口から益田を過ぎ、ようやく日本海が見えてきた。しかし、標識の示す京都でさえ、まだ絶望的な距離数である。ロードマップを何度も開いたが、ちっとも進んだ実感はない。軽はずみな思いつきを呪った。しかし、サンバートラックは快調だった。660ccになり何の問題もなかった。夜に入ってペースは上がり、午前2時ころ大津に入る事ができた。ここまで来ると相当進んだ気になる。少し仮眠を取ろうとしたが、東進する前線とずっと一緒でシュラフはしけり、おまけに結構な風でシートはバタつき、せっかくこしらえてきたベットではあまり寝れなかった。「1国」は全線にわたり渋滞状態で、夕方の七時ころようやく横浜の友人宅に到着した。とうとう来てしまったのだ。そして、今は頭をもたげる帰りの不安を努めて押さえ込んでいた。

軽トラを購入してからしばらくは、スバルが発行しているユーザー向けのリーフレット「カートピア」がサービスでディーラーから送付されていた。熱心なスバルファンなどが定期購読しているようだ。読者の便りのコーナーなどもあり、愛車自慢、ツーリングや旅行記などが紹介されている。元NHKモスクワ総支局長、小林氏の投稿記事が出ていて驚いたこともあった。
この雑誌は隅ずみまで読んでいる。若いカップルのレガシィーツーリングワゴン房総半島ツーリングリポート幸せ記事など目にするのもいい。そのうちには、インプレッサWRX激走記事も登場することだろう、いいではないか。今でしかできない事は確かにある。そして、スバルサンバートラック660スタンダードで、友と飲み、語るために三十七時間もかけ、はるばる関東まで出かけた、アホなおじさんツーリングだってあったのだ。

我家には、郵便物は三時少し前に配達される。お茶を飲みながら郵便物を読むのはささやかな愉しみなのだ。カートピアに投稿された若いお兄さん達のドライブ記事を読みながら、僕は逆上的に「おっさん軽トラツーリング記事」を書き上げ、投稿した。なにしろ軽トラなどはめったに登場しないだろうから、それが良かったのか、三十七時間が効いたのか、「カートピア」に掲載したいので、旅行中の写真を送ってくれませんかという編集部からの電話。写真など取ってもいないツーリングだったので、嫁さんと二人、にこやかにタンスなど積み込んでいる写真でも撮って記事といっしょに送ろうか。結構、ウケるんでねえべか、注文くるべ。などと考えたのだが、止した。結局それきりになってしまったが、ひょっとすると幾つかの注文を失ったかもしれない・・・。
(1992)


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