家具について (2) ―家具の實用工作法より
杉田幸五郎氏は椅子式家具の製作と普及には驚くべき努力を拂(はら)ひ大正末期に至るまで久きに亘(わたっ)て奮勵し優秀なる門下生を帥(ひき)ひて椅子式家具發達に大なる貢献をなしたのである。今日椅子式家具業者の重鎮は殆(ほとん)ど杉田氏の直流か或は餘流を汲むだ者である。かくて發達を續けられたのであるが、明治政府の政治的指導意圍は建築と共に官衙(かんが:役所、官庁の意)、學校、其他公共生活方面の發達を第一となされたので、その方面の椅子式生活は發達したのであつて一般大衆の住宅の發達には及ばなかつたのである。貴族、富豪の邸宅の客室、食堂等には椅子式家具を用ひられたのであるが、一般大衆は依然として座式生活である。従て一般大衆は座式家具を需用した。ここに於て一般大衆は椅子式家具と對稱(たいしょう)して座式家具を以て日常の家具となし、椅子式家具は一般大衆の日常生活には凡そ縁遠いものであり、贅澤物であるとさへ誤解するに至たのである。
大正時代に至り一般大衆の日常生活改善の機運に到來し、種々の方法によつて椅子式生活が文化生活に必要なる所以を明にするに至り椅子式生活は一般大衆の文化生活上直接必要であることを漸く認識するに至たのである。
昭和の今日に於ては益々其の發達の状態に進みつゝありて、椅子式家具の意義を愈々(ゆゆ:ますますの意)明になしつゝあるのである。