家具制作鯛工房

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天然砥石について

京都で天然砥石の製造販売を行なっている共栄砥石工業所の人見英夫さんにお話を聞きました。
私は木工を始めて以来、砥石は人造砥石だけで今日まできました。あの有名なキング砥石です。天然砥石を使わなかったのは、値段が高いこと、どういう種類の砥石を選んだら良いか、よく判らなかったというのが理由です。しかし、多くの木工関係の職人から良いといわれている天然砥をそのうちには使ってみたいと思っていました。これを機に天然砥石に対する質問、疑問点などをお聞きしました。以下、人見さんの説明を紹介します。

(有)共栄砥石工業所は、現在、京都に五軒残る天然砥石の採掘、販売元の一つです。五軒の採掘所のうち一軒は「青砥(あおと)」を、他は「合砥(あわせど)」を産出しており、共栄砥石もこの中に含まれます。鉱脈により砥石の種類は決まり、一ヶ所からいろんな種類の砥石がでることはないそうです。
人見英夫さんは四代目で、創業は百年位になるそうです。従業員は五名、その内、採掘作業員は二名。坑内掘りで、坑道は上、中、下の三段坑。坑道は百五十メートル位、層は厚めだそうです。一番上の坑口からは「色物」といわれる柔らかめの砥石が、二段目からは中位の硬さの「からす」といわれる砥石が、そして下段の坑道からは硬めの「からす」が取れるそうです。なお、現在は露天掘りはなくなってしまったそうです。

砥石の鉱脈は京都市の西北に位置する愛宕山を中心に東西約三十キロメートル位だそうです。そのエリアに採掘所は点在しています。

仕上砥石のことを「合砥」と呼び、その中でも「本山(ほんやま)合砥」と呼ばれる砥石は、今からおよそ八百年位前、本間藤左衛門というひとが嵯峨の奥、菖蒲谷で砥石を発見し、その子孫が代々採掘にあたっていたので本間の山、略して本山と呼んだそうです。その後、鳴滝、高雄、丹波各地で採れた砥石もすべて本山というようになったそうです。
本山合砥も「色物」と呼ばれる仕上げ砥で、色物とは、色はベージュ系、硬さは軟らかめ~中位、ドロ気が多いのが特徴で、最近は全国的に軟らかいものに人気が片寄っているそうです。
また、近頃は「色物」に「本山」以外の、採れた山の名や地名の印を押している場合が多く、このことが天然砥石を分かりにくいものにしているそうです。 採れた山の名が押されている砥石は、「巣板」にも少しあるそうです。
「巣板」は刃物のくいつきが良いが、割れ易いということがいえるそうです。
「からす」は硬めでの付きがよく長切れし、好きな職人はこればかり使うそうです。「からす」にも「色物」に近い軟らかめのものから、黒い斑点の無い非常に硬いものまであり、宮大工は、硬くて、長さが260mm~280mm 位の大きなものを使う場合が多いそうです。斑鳩工舎にも「からす」を入れているそうです。
「内曇」は産出量が極端に少なく主に刀剣用に用います。日本刀のぼかし用に使用されます。
「青砥」は、大きいものはほとんどなく、百型(160×58mm)は多少あるそうです(二千円位から)。 「門前砥」は青砥の一種で、赤みをおび、青砥よりもさらに軟らかく、肉屋等が刃物の油取りに使うそうです。

人見さんは一月に一度、一週間位づつ全国各地を営業に回ります。地域により砥石の好みもかなり違うそうです。全国的に軟らかいものが好まれるという傾向の中で、宮大工、仏師は硬めを好みがち、関東は特に軟らかいものを好み、九州では宮崎県が軟らかめ、鹿児島県はやや硬め、長崎県は品質よりも「巣板」の厚いもの(5センチ以上)を好み、薄いものは商売にならないそうです。

私は「からす」の中位の硬さのものを購入しました。「色物」などの軟らかい砥石はドロ気が多く研ぎ汁がすぐに出て、研ぎ上がったような感じがしますが、実は刃が付いてなく長切れしませんという説明に、思いきって硬いものにしたのです。人見さんが持ってきた京都天然砥石組合のパンフレットにも「軟らかい合砥は無難ですが、締り目の硬い石で仕上げると一層効果があります」とあります。
研いだ感じでは、思った以上に硬いというのがファーストインプレッションです。十分に名倉砥をかけることが大事です。研ぎ汁が出始めたら大丈夫、水は付けすぎないこと、少なすぎてもだめ、力は入れすぎないことがコツです。結構切れるようです。研ぎ方にはすぐに慣れそうです。あとはしばらく使い込んでみないとなんともいえません。

■(有)共栄砥石工業所
〒629-01 京都府船井郡八木町八木上野 42-2 TEL:0771-42-2234