ウィンザーチェアー
■はじめに
伝統的なウインザー チェアーやスラットバック チェアー(ラダーバック チェアー / シェーカーのサイドチェアーの原型と考えればよい)には派手さはありませんが、時代を越えて人々に安らぎを与える何かがあります。そして、その二種類の椅子は、古くから非常に多くの椅子デザインのベースになっているのが分かります。多くの有名デザイナーやクラフトマンによってリデザインされ、時代、時代に蘇っているのです。身近な例では、ジョージ・ナカシマ、奥村昭雄氏などの椅子の基本形態はウインザー タイプでありますし、ハンス・ウェグナーの椅子デザインには、両者の混淆を感じるのです。
■グリーンウッドワーキングとウインザー チェアー
英国のウィンザーチェアーメーカー、トム・サックレー氏に説明を受けたウインザー チェアー メーキングの歴史の概略を述べます。私の低い英語力のため、正確さを欠く記事になっている可能性がありますことを御了承下さい。とはいえ、本場のチェアーメーカーの説明は、非常にスリリングで、私にとっては衝撃的な内容だったのです。
まず、ウインザー チェアーの定義を述べておきます。「厚い木製の座面を基盤として、椅子の脚・スピンドルなどが直接座面に接合された椅子である」 (ウインザーチェアー研究家:アルパン・スパークス/椅子のフオークロア:鍵和田務:柴田書店)
様々な定義があるかと思いますが、私はこの意見に同意しています。
英国の記録に残る最も古いウインザー チェアーは1714年製だそうです。その昔、椅子職人達は生活道具一式を持って雑木林に入り、丸太と草葺きの小屋を建て、そこで暮しながら、木材を伐採し、椅子のパーツを作ったのです。
先ず材料となる雑木を伐採します。動かせない大きな樹木は地面に穴を掘り、二人一組となってピットソー(PIT-SAW)と呼ばれる鋸で材をタマ切りします。次にその材をクサピで割っていきます。そして、シェービング ホースと呼ばれる作業台に材を挟み、ドローナイフやスポークシェイプで割った材料を四角や八角形に成形し、ポールレーズ(POLE-LATHE)と呼ばれるマニュアル式旋盤(脚踏式旋盤)で丸く仕上げるのです。
脚踏式旋盤とは、カラマツ等の丸太の先に紐を縛り、その紐を材料に巻きつけて脚踏みペダルに結びます。足でペダルを踏むときに合わせて材料を削り、丸太のスプリングを利用して材料を巻き戻します。この繰り返しによって材料を丸く成型します。
ポール レイズを用いて、熟練したボジャー(旋盤工)は一日に10〜12ダースものセットを仕上げていたそうです。しかも、ポール レイズは足で踏んでいる間しか材を削ることができませんから大変なことです。足を持ち上げると木を利用したバネの力で踏板は巻き上げられ、そのとき材は逆回転しているわけですから。
脚は組み立てまでに、その後一年ほど天然乾燥させるそうです。スピンドルなどの細い材の乾燥はもっと短期間で十分です。
(写真:ポール レーズの実演風景/かすかに材に巻き付けられた駆動用の紐が見える。左端は現役のグリーンウッドワーカー、ポール レーザー)
トム・サックレー氏によりますと、ウインザー チェアーは通常四人の分業で組み立てまで行なわれます。座面を製作する職人はボトマー(BOTTOMER)、曲げ加工を行なうのはべンダー(BENDER)、旋盤加工をする者はボジャー(BODGER)、それらのパーツを集めて組み立てるのはフレーマー(FRAMER)と呼ばれていました。
トムも椅子職人となって最初の十年間は、ポール レーザーだったというのです。つまり、ボジャーです。
初期のボジャーは斜バイト(スキューチセル)一本で全てのターニング パーツを仕上げていました。そのバイトを用い、紐面などの加飾まで施します。初期のウィンザーチェアーの脚は座面に近い部分に三本のビード(紐面)を付けただげの粗末なものだったのです。
生木を加工して木製品を作ることをグリーンウッド ワーキングといい、欧州の伝統的な木工技術です。現在でもそれを行なっているグリーンウッドワーカーは欧米には少数ですが存在します。つまり、トムも以前はグリ一ンウッド ワーカーだったのです。
そして、私の中の以前からの疑問がようやく解けたのです。
ウインザー チェアーもその歴史、製作方法からいって、スラットバック チェアーと同じように、グリーンウッド ワーキングの範疇の椅子ではないだろうかと考えていましたが、まさしくそうだったのです。
驚いたことには、スラットバック チェアーも当時の英国でもポピュラーな椅子で、ボジャー達はスラットバック チェアーのパーツも製作し供給していたというのです。私の中の近くて遠かった二つの椅子が、同じ時代に、同じ地域で、同じ職人達によって加工されていたのです。
■イングリッシュスタイルのウインザーチェアー
ウインザー チェアーの源流は十六世紀の挽物椅子まで遡ることができ、十七世紀後半に、半円形の座板にスティックや肘掛け、外開きの三ないし四本の脚を差込んだ「コムバック」の形式が生れました。この「コムバック」がウインザー チェアーの最古の形式だそうです。十八世紀初期になると、クイーンアン様式のスプラットバック チェアーの影響を受け、背もだれの中央に細長い背板が配置され、英国のウインザー チェアーの基本的な形式ができあがったそうです。
ストレッチャーの形式は「H」型と牛角型(カウホーンまたはクリノリン(Crinoline)とも呼ばれる)があり、現在では、クリノリンがイギリスのウインザーの特徴であると認識されているようですが、クリノリンを用いたものは十八世紀までのものに多く、十九世紀になると圧倒的に「H」字型のものが多くなってきます。
英国のウインザー チェアーに用いられる材料は、座面にはエルム(ニレ)、曲げ材にはアッシュ(タモ)、ヨウ(イチイ)、ビーチ(ブナ)、挽物部材には主としてブナが用いられました。トムは、材料としては、ヨウが最高だということです。また、サクランボのなるチェリーなど、果実のなる木も適材だということでした。阿蘇郡小国町でのワークショップでは、座面には英国産コモンエルムとウィッチエルム、その他の材はすべてアッシュを用いました。このように材質の異なった木材が使われたので、昔から、仕上は塗装または染色によって着色されてきました。
ゴシックスタイルのウインザーを多くみかけるのもイギリスの特徴かもしれません。ゴシックスタイルは天国への憧れを表現する高い塔を持った寺院に象徴されます。家具においても垂直線を強調し、シンメトリカルな形態と豪華な彫刻装飾に特徴があります。イギリスは他のヨーロッパ諸国よりもゴシックの時代が長く、現在に致るまで、ウインザー チェアーにもその影響が残っているのかもしれません。
英国のウインザーは、アメリカン ウインザーに比べ、より垂直線を感じます。あまり円弧状に広がらない背もたれのループ、数が多く、放射状に広がらず、垂直を感じるスピンドル、開きを押さえ、やはり垂直に近づけた脚。これは一般的なアメリカン ウインザーと明らかに異なります。また、ゴシックをはじめ、イギリスのウインザー チェアーはさまざまな様式を取り入れ、非常に多くの種類があるのが特徴です。私は、アームボウ(肘掛け)やバックボウやスティック(スピンドル)が細身のアメリカン ウインザーも好みですが、英国製ウインザーも非常に新鮮に映るのです。
アメリカ合衆国にウインザー チェアーが持ち込まれたのは1725年頃だそうです。アメリカのウィンザー チェアーはイギリスのものに比べ、一般に座板が厚く、脚は外方向に広げられ、スピンドルが細いのが特徴です。また、イギリスのようにキャブリオル脚やスプラット(背板)などのような流行に左右されるような装飾がなく、きわめて単純なデザインで、時代の流行に影響を受けることは殆どありませんでした。
「Make a Windser Chair With Michael Dunbar」(Michael Dunbar 著:タウントンプレス刊・廃刊)というテキストは、アメリカン ウィンザー チェアーの伝統的な作り方を説明したものです。勿論グリーンウッド ワーキングの手法で制作していますので、トラビッシャー(Travisher : 刃が外丸で柄が上方向に反った南京鉋と考えて下さい、座の成形などに用います)も使っています。
イギリスでいうボウバック ウインザーのことは、アメリカではサックバック ウインザーと呼ぼれることが多いそうです、私が見聞きした中でのイングシッシュ スタイル ウインザーの大まかな特徴といえるものは以下の事項かなと考えます。
- 背もたれの中央部にある、薄くて細長い背板。スプラット バック(Splat Back)ともいわれる。
- ストレッチャーに曲げを利用した、クリノリンと呼ぼれるパーツを用いる場合が多い。
- カープド アーム ポスト(カーブド アーム サポート)を用いる。
- 脚やスピンドルがあまり広がらず、割と垂直に近い。
次に、アメリカン ウインザー チェアー メーカーの Mchael Dunbar 氏と比べて、また、私が講習会で感じたトムの作り方の特徴をあげますと、木材の収縮は特に気にしない。脚、スピンドルを通し柄にして楔で固定しない。途中で止めるが、地獄柄ではない。スピンドルの制作にラウンダー、トラッピング プレーンと呼ぼれるイギリス独特の道具を用いる。などです。
-
■
参考文献:椅子のフォークロア (鍵和田務著・柴田書店)
鯛工房 / 〒869-2504 熊本県阿蘇郡小国町西里 1608-2
Copyright 2005 Tai-workshop / All rights reserved.